『脳内クラッシュ演劇「DRAMAtical Murder」』が凄まじかったというお話(再投稿)

タイトル通り、2019年12月20〜29日に上演されていた『脳内クラッシュ演劇「DRAMAtical Murder」』の話をするだけの記事である。

 

DRAMAtical Murder」とは?

2012年3月23日にNitro+CHiRALより発売されたボーイズラブ系アダルトゲーム。略称は『ラマダ』。

  • ジャンル:脳内クラッシュADV
  • シナリオ:淵井鏑
    原画:ほにゃらら

 

ストーリー(公式より引用)

今よりずっと先の未来。
日本の南西に位置する碧島(みどりじま)は、日本有数の財閥「東江財閥」有する豪華な会員制娯楽施設「プラチナ・ジェイル」と、強引な開発の犠牲となった島民たちが追いやられた「旧住民区」に二分されていた。
旧住民区では、とあるゲームが流行していた。かたやチームを作り、肉弾戦での縄張り争いを繰り広げる「リブスティーズ」と、かたや仮想世界を舞台にした電脳オンラインゲーム「ライム」に熱狂する「ライマー」。
主人公・蒼葉はそのどちらにも興味を示すことなく、旧住民区でのんびり祖母と暮らせればそれでいいと思っていた。
しかし平穏な日々を揺るがす異変は確実に起こり始めていて—。

まぁこの説明じゃなんのこっちゃとなるであろう。

なので超ざっくり筆者主観で説明すると、電脳世界と現実世界の狭間で、主人公・蒼葉が碧島で起きている異変に立ち向かい、その渦中に出会った人と心を通わせていくストーリーである。

 

この時点で"脳内クラッシュ"については何も記載は無いが、それは後ほど説明するとする。

余談だが狂ったように筆者が通っていた為、友人にオタクの脳をクラッシュする的な意味かと思ったと言われた。それも強ち間違ってはいないが。

(観て!と押したら配信も買ってくれて視聴してくれるような友人である。感謝)

 

円盤化をしない、との公式発表がある現時点でこの感情を文章化せねばならないとひたすら殴り書いている文章なので拙いところや、見解違いがあると思うが、あくまで私の書くものなのでそこは目を瞑ってほしい。

 

 

ポイント①

「脚本」

筆者は元々はゲームをほとんどやったことのない人種なので、この手の類のゲームにどのような通例があるかは知り得ない。

原作ゲームはスキップを使わずプレイすると、共通ルート〜分岐ルート1人分をやり終えるまで丸一日かかる。

それを上手く掻い摘んで上演時間2時間の作品にまとめこんできたので、初日はとても驚いた。

故に爆速で進むため原作を未プレイの観客がついてこれたのかは、存ぜぬところである。

(冒頭に登場した友人には筆者が少し解説をした。)

しかし、原作のファンとしては、真実を知る為に共に行動するキャラクターと主人公で終える1幕最後の部分まで、日常的な場面、コミカルな場面、シリアスな場面、物語を進めるために必要なストーリーを最低限且つ目一杯に表現してくれていたので、感嘆をした。

世界観的にかなり解説が必要なものである為、主人公・蒼葉とウイルス&トリップ*1が主に語りべとして物語を軽快に進めてくれていた。

なので私としてはすごく解りやすく観易く作られているなあ、と感じた。

そして、エンディングについて。

原作には無かったような、"半歩先"の心情描写があったのである。

心を通わせた後にあった事、蒼葉はこう考えていたのかなあ、などと受け手側が想像するようなことをこの舞台では加えて表現されていた。

それに初日に私は心を震わせたものである。

 

ポイント②

「演出」

 近未来的な舞台、その中で行われる電脳戦、ボーイズラブ的要素、それがどのように表現されるかは、原作のファンは危惧していたところであったと思う。

しかしそれを全て巧く昇華したのがこの舞台だ。

ステージセットは六角形の八百屋舞台*2がステージの中心にあり、それを六角形の"ライム"空間を表現した装飾が施されているだけだ。

あとはそれにスクリーンが大小さまざま数個配置されているぐらいでかなりシンプルなものであった。

その中で照明やスクリーンの活用や当然のこと、4人と多くはないアンサンブルを"モブ"としてだけではなく、空気や香りとしても扱い、碧島という土地の空気を作っていた。

18禁BLゲームなので互いに触れ合うシーンを如何様にするかというのはこのゲームをプレイしている人は気になったところではないだろうか。

キスシーンは容赦なくあったが(特にノイズルート…)、目合のシーンはほとんどがコンテンポラリー調のダンスで表現されていて、なるほど…と感心したものである。

それもゲームをやっている人間から観ると、「あ、ここで服を脱がせているんだ」とか○○しているな、と判る表現で、振付師さんの表現力、それを表現する役者さんのパワーに平伏すほかなかった。

かなり直接的なことを言ったりやったりしていたルートもあったのも事実としてここで述べておく。

さらに演者さんがかなりノリノリでその際の台詞をツイートしていたのには驚いた。

心と身体が重なる瞬間が非常に美しく表現されていて、舞台上で出来る身体表現の最上級品だと感じた。

その過程で、ただ舞い絡み合うだけでなく、原作中にある「クゥ~この台詞!」となるポイントの台詞を入れ込んできたのも、原作ファンにはたまらないポイントであったかと思う。

 

それを経てエンディングでドラマダのテーマソング「AI CATCH」を、その日の"もうひとりの主役" と蒼葉がセンターで踊るのは、ずるい演出だと思う。

本来の意味とはずれるが、悔しいことに脳内クラッシュされてしまう演出だ。

余談ではあるが、今回の舞台は沢山のイベントが開催されていた。

その内のカーテンコール撮影会(インターネット共有可)と称して先述した「AI CATCH」の動画もあるので、是非観てほしい。


12/29 脳内クラッシュ演劇「DRAMAtical Murder」 カーテンコール「AI CATCH」動画

 

 
ポイント③

「キャラクターの再現度」「役者さんの最高のポテンシャル」

もうこれは表題どおりである。

私もまだまだ2.5次元初心者であるが、某テニス作品の舞台化から今やメインカルチャーとも言えるようになっているであろう「2.5次元」。

かなり大きな市場になっている作品もある中、全くの新規介入コンテンツのハードルはなかなかなものだと思う。

そんな中でも魅せてくれたのが、この作品である。

 

蒼葉を演じる永田聖一朗さん、ずっと出ずっぱりで膨大な台詞やアクションをこなす。

ただこなすだけではなく、それに伴った表現力も凄まじく、通常時と"暴露(スクラップ)*3"時の切り替わりは圧巻だ。

それ以外にも各ルートに分かれたときに存分に発揮される"目"の違いだ。

蒼葉自身はすごくニュートラルな主人公であると思う。

しかし、それの相手となる者は出生地、年齢、抱えたものは様々だ。

年下相手に見せる慈愛の笑み、幼馴染相手に見せる照れくささを含んだ友愛の笑み、失われてしまいそうな者を包み込む切愛の笑み、常に背中を追いかけていく相手に向ける信愛の笑み、自分をずっと傍で見てくれていた者に向ける情愛の笑み…

各ルートに分かれたからこそ見せる表情が本当にたまらないのである。

筆者としては蒼葉以外の最推しを抱えているが、その差分を観る為にステラボールに通っていたと言っても過言ではない。

永田さんの演技と蒼葉のキャラクターが何度も交わることによって、より至高なものになっていくのを何度も通っている内に感じた。

 

それ以外のキャストさんも、"本物"なのだ。

 

原作ゲームは動画な訳ではない。

ので、得ることの出来たものは、スチルと声のみでの情報だ。

それはそれで想像力を試されて楽しいものではあるが、知っている台詞を目の前で身体で表現をされる旨みは何にも代え難いものであると思う。

舞台での台詞のある演技を経験したことがない演者さんもいる中、皆さんゲームをプレイして沢山考えて解釈をしてくださって、私達に提供をしてくれた。

そして私の目の前にいる"それ"があまりにも"本物"である為、私はのめり込んでしまった。

個人的にはウイルス&トリップの立ち居振る舞いの解釈が最高に好きで拗らせているという余談を置いておこう。原作以上に色っぽすぎない?!?!

キャラクターという制限がある中で、楽しそうにキャラクターとして演っていたアドリブも日々の公演の楽しみのひとつであった。

明日は明日の風が吹く」と当日打ち合わせをしたと楽しそうに26日のアフタートークで話していたウイルス&トリップは忘れられない。

私が行った日まとめ↓

twitter.com

 

 

これ以上キャラクターの魅力を語るのはこの文章の目的とはずれるのでまたの機会に書こうと思う。

 

声帯を愛するようなファンの方には理解し得ぬことだとは存ずるが、2.5次元の醍醐味とも言えるであろう衣装を纏った立ち姿、喋り方、EDで踊るダンスの踊り方などなど"キャラ解釈"はどのキャラクターも文句無しで、初日観劇後は"ドラマダ"がステージで生きている…と感動したものである。

前述もしたがボーイズラブ系アダルトゲームが原作、且つルート分岐までやるというのだから、細やかな心の交わりが描かれる以上各ルート各キャラの見せる顔はかなり違う。

それもキャスト全員が繊細に私達を魅せてくれたのがこの作品。

役者さんのポテンシャルの高さにひたすらに圧倒された10日間であった。

 

 

正直、真っ向からBLなので、多くの人にオススメできるものではないと思う。

けれども、「DRAMAtical Murder」の世界を限られた時間の中で最大限に表現してくれた、カンパニーの皆さんには本当に感謝しかない。

正直、初日公演の空席具合は19時開演なのにこんななの?!と思わず悲観をしてしまったぐらいではあった。

けれども、最高の形で「DRAMAtical Murder」を作り上げてくれていたお陰で、どんどん高評判が広まり、終盤は当日券が抽選になるまでになっていた。

有終の美を収め、改めて素晴らしい作品であったと言える結果になったのだと思う。

残念ながらこの作品は円盤化の予定はないと明言されている。

しかし本日1月2日より5日までDMM動画にて、千秋楽・蓮(=真相)ルートの配信が行われている。

もし気になった方がいらしたら、この機会は絶対に逃さないでほしい。

そしてアンケートで円盤化の要望を書いていただけたら嬉しい。

 

1月17日追記

5ルート全てのアーカイブ配信が決定しました!!

正直、スイッチングとか多分してないし難しいんだろうな…と思ってたけど、全景固定でも出してくれた…

実質舞台5本を60日間税込3,800円で観られるのは、普通に考えてコスパが良いどころの話ではないと思う。

もしこの散文でこの舞台が気になった方がいらしたら、全ルートそれぞれの旨味がたっぷり詰まった『脳内クラッシュ演劇「DRAMAtical Murder」』の世界を存分に味わってほしい。

www.dmm.com

 

最高の思い出をありがとう、ドマステ。

さよならは言わないまた会える日(=再演、続編の上演)まで。

*1:蒼葉の旧くからの友人のヤクザ、しかし本当の姿は…

*2:奥から斜めになっている舞台のこと

*3:蒼葉の中にいるもうひとりの蒼葉の持つ"声"の力を使い、人の精神に入って、人の心を(生かす意味でも殺すという意味でも)壊す=脳内クラッシュする行為